ピース・又吉直樹さんが「2100年の結婚式」の物語を描いたら、「2200年を生きる子孫」が登場!? 又吉さんが捉えた結婚式の本質

新型コロナウイルスの流行によって、さまざまな場面でオンライン化が急速に進んだ2020年。新しい生活様式は、「結婚式」にも大きな影響を与えました。オンライン式場見学、結婚式のLIVE配信など、新しいサービスがいくつも誕生しています。

あらゆる場面で変化のスピードが上がる今、あらためて結婚式の本質と向き合おう、そして結婚式の未来を構想しよう──そんな思いでウエディングパークが企画したのが、結婚式の価値を捉え直すプロジェクト「Wedding Park 2100」です。

Wedding Park 2100」プロジェクトでは、結婚式の未来を「体験」していただくために、2021319日から21日にオンライン・オフラインハイブリッド型のイベントを開催。過去から現代までの結婚式の変化を知れる「イマ」エリアと、「2100年の結婚式」をテーマにした作品を集めた「ミライ」エリアで構成された展示は、イベント会場への来場と、バーチャルツアーやYouTubeの視聴などをとおして、数百名に体験していただきました。

このイベントに合わせて、「2100年の結婚式」をテーマにしたショートストーリーを書き下ろしてくださったのは、お笑い芸人で作家の又吉直樹さんです。

又吉さんのストーリーには、お題になっている「2100年」からさらに100年先の「2200年」を生きる又吉さんの子孫にあたる人物が登場し、今と未来が織り交ぜられた世界観のなかで結婚式のあり方が描かれています。

今回は、「書くのがとにかく楽しかった」と語る又吉さんと、「Wedding Park 2100」プロジェクトの責任者である株式会社ウエディングパークブランドマネージャー菊地亜希の対談が実現しました。又吉さんの書き下ろし作品『2100年の結婚式』を、作品が生み出された背景とともにお楽しみください。

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■ プロフィール
又吉 直樹(またよし
なおき)
1980年大阪府寝屋川市生まれ。吉本興業所属のお笑いコンビ「ピース」として活動中。2015年に本格的な小説デビュー作『火花』で第153回芥川賞を受賞。同作は累計発行部数300万部以上のベストセラー。2017年には初の恋愛小説となる『劇場』を発表。最新刊に初めての新聞連載作『人間』がある。他の著書に『東京百景』『第2図書係補佐』など。
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又吉さんが「2100年の結婚式」のテーマに心惹かれた理由

(左:又吉直樹さん、右:菊地亜希)

── 又吉さんが「2100年の結婚式」をテーマにしたショートストーリーを書き下ろしされるまでに、どのような経緯があったのでしょうか?

菊地:ご依頼した理由として、これまでに触れてきた又吉さんの作品に対して、人間がこまやかに描写されていて登場人物にリアリティーがある、という印象を持っていたんです。
「結婚式」は、時代とともに形が変われど、人と人との関係性があって成り立つもの。結婚式の物語には人の描写が非常に重要になる、と考えて、又吉さんにぜひお願いしたいと思いました。

又吉ありがとうございます。

菊地:もうひとつは、又吉さんの視点そのものに興味があったからです。私たちが毎日向き合っている「結婚式」について、又吉さんだったらその価値をどのように捉えて、どんな視点で描かれるのか、ぜひ読んでみたいなと思ってオファーさせていただきました。

── 又吉さんはお題を聞いてみて、どう思いましたか?

又吉2100年の結婚式」というテーマをいただいて、お題が魅力的だと感じました。「2100年ってどう考えたらいいんだろう」とも思いつつ、決して簡単ではないけれど考えてみたいテーマだなと。「これは避けたらあかんのちゃうか」と感じて、お受けしたんです。

── 難しいと感じたお題を避けなかったのは、なぜでしょうか。

又吉僕は作品を考える上で、人からもらった言葉を大切にしています。今の僕が持っている引き出しだけで作品をつくっても、あまりおもしろがってもらえないと思っていて。自分の枠の先にあるものをお見せしたい。その枠を超えるきっかけとして、人からの投げかけを重視しています。

たとえば友だちの相談にのっているときに、「それはこういうことなんじゃないの?」と返します。でもそうやってアドバイスしておきながら、心の中で「あれ、俺は今までこんなことを考えていなかったじゃないか?」って気づくんです(笑)。

そのアドバイスって、自力で引っ張り出せたんじゃなくて、友だちの持っている悩みが引き出しを開けてくれたから出てきたもの。予想していなかった方向からボールが飛んでくることで、今まで自分が決めていたフォームだけでなく、こうやって蹴り返すこともできるんだ、と気づける。だからお悩み相談でも作品づくりでも、お題をもらって何かを返すことは共同作業だと思って、大切にしています。

2100年の結婚式を考えたら「枠」が外れていった

Wedding Park 2100」のイベント会場「ミライ」エリアの入口。
右側に展示されているのが、又吉さんのショートストーリー

── 又吉さんの作品には、2100年と2200年の結婚式が描かれています。未来の結婚式を描かれる上で、意識したことはありますか?

又吉そうですね。結婚のあり方も結婚式のスタイルもどんどん多様になっていくでしょうから、さまざまな選択を尊重できればいいな、と思いながら書きました。永遠の愛を言葉で誓う方法が合う人はそれを選べばいいし、言語ではない世界を重視するのもありかな、と考えたんです。

イベント会場で「2100年の結婚式」の展示を見ていて、みなさんに共通しているように思ったのが、「枠を外していく」発想になっているんじゃないかなと。今ある枠がもう少し拡大したり、スタイルが変容したり。僕も自ずとそういう考え方になったので、「ああ、一緒なんだな」と思いましたね。

── 又吉さんが描かれた結婚式のシーンは、すごくわくわくする描写でしたね。

菊地:読み終わった後に思わず「すごい……」とこぼしていました。「2100年の結婚式」というお題に対して2200年の描写が出てきて、びっくりしたんです。

でも結婚式のシーンは、見たことのない技術を使っている描写なのに、読みながらそのシーンが思い浮かぶようなリアリティーがあって。過去と今と未来を行き来しながらも、それらがひと続きになっていることを実感できて、今回のイベントにぴったりの作品だなと感激しました。

又吉:結婚式での感動がその後のカップルの支えになる、とよく聞くので、結婚式が特別な日であることを書きたかったんです。これから結婚式を挙げる方が、「今日は自分が世界の主人公なんだ!」くらいに楽しめたらいいな、と思いながら書きました。

── カップルの方々が又吉さんの物語に触れることで、結婚式について考えるのが楽しくなりそうだな、と感じました。

菊地:実際に、国や地域によって結婚式ってさまざまな形があるんですよね。結婚式に3日かける国もあれば、1,000人規模のゲストが集まる地域もある。「一緒に生きよう」と決めたふたりの人生の節目をお祝いするお祭りは、文化によって形づくられてきたんだな、と感じます。

結婚式を彩る料理や衣装、飾りは「おめでとう」や「ありがとう」の気持ちだと思うんです。気持ちを形で表現するという意味では、結婚式もコミュニケーションの一環なんじゃないかなと。だから自然に文化と結びつきますし、時代によっても変わっていくんだろうな、と考えています。

人とつながる結婚式を通じて、未来とつながる

── 又吉さんの作品では、2200年の結婚式が登場することでエッセイのような小説のような展開になっているのが印象的です。

又吉今回のショートストーリーでは、結末を考えずに書き始めたんです。普段から、「これって何なんやろう」と自分がわかっていないことを書き始めて、書いている途中で「こういうことやったんや」と落とし込んでいくことが多くて。書くことで、自分の認識の先に踏み出せる感覚ですね。

今回も「2100年の結婚式」を描く上でいちばん重要なのは「結婚式のあり方」だと思ったので、結婚式ってどういうものなのか、書きながら発見できたらいいなと思っていました。その手段として、2200年という材料を使っています。

又吉さんのショートストーリーは、未来の私たちの生活にも
きっと欠かせない衣食住の「衣」である布に印刷された

── 又吉さんはこの作品を書いてみて、結婚式をどのようなものと捉えたのでしょうか。

又吉僕が参加した結婚式を思い返してみると、その人がどういう人生を歩んできたのか、立体的に見える場だなと感じたんです。だからいつも「お祝いしたいな」と思って結婚式に行くけれど、それ以上のお土産を自分がもらっている感覚になります。

たとえば、大人になってから出会った友だちであれば、友だちがどんな幼少期を過ごしてどう成長してきたのか、なかなか知る機会がないですよね。でも結婚式なら、その人の歴史を知れる。その人について知っている面が、今までよりも増える。それがすごくおもしろいと思うんです。

だから結婚式って、その人が生きてきた人生のすべてを受け入れた上で、その先も受け入れる場なんですよね。これまでこうやって言葉にしたことはありませんでしたが、ショートストーリーを書いてみて初めて理解できたように思います。

菊地:そう考えると、結婚式は「人とのつながり」が集約されている場なのかもしれないなと思いました。すでにつながりを持っている人たちが、結婚式を通じて新たにつながるきっかけになるイメージですかね。

又吉そうですね。結婚式を通じて、自分たちと未来が色濃くつながれると思いました。家族や仲の良い友だちとの結婚式があって、人と人とが家族になって、そこからさらに家族が増えていく。結婚式によって、命がつながっていくんだと思います。

だから今回のショートストーリーでも、「子孫」が登場することは結婚式にふさわしいなと考えました。このストーリーから、ご自分たちの結婚式を楽しく想像していただけたらいいですね。

菊地:又吉さんの作品をはじめ、さまざまなクリエイターの方が考える「2100年の結婚式」をヒントに、結婚式が自由で楽しいものであることを知っていただけたら嬉しいです。

(取材:染谷拓郎(日本出版販売株式会社) 文:菊池百合子 写真:土田凌 企画編集:ウエディングパーク


■2100年の結婚式:又吉直樹【Wedding Park 2100】又吉さん作品

319日~21日まで開催したイベントは、現在もオンラインでお楽しみいただけます。

【オンライン開催】イベント会場のバーチャルツアー&音声ガイド、体験リポート動画を公開中!