「『こういう結婚式もあり』と思ってほしい」Gugenka荻谷哲さんに聞く、メタバース結婚式に込めた想い

新型コロナウイルスの流行をきっかけに、結婚式のあり方が一気に多様になりました。これまでにない方法が検討されたからこそ、ウエディング業界もカップルも「なぜ結婚式をするのか?」「結婚ってなんだろう」と考える機会が増えたのではないでしょうか。

結婚式のあり方に大きな変化が生じている今こそ、これまでの歴史を知り、先のミライに想像を馳せてみることで、「結婚」や人生に寄り添う「結婚式」の価値とあらためて向き合いたい──。そんな想いでウエディングパークが企画したのが「祝う、分かち合う、感動する」未来の結婚式を体験するプロジェクト「Wedding Park 2100 ミライケッコンシキ構想」です。

2021年、2022年に続く、3回目の特別イベントとして、2023年3月「Park になろう―結婚式は未来の新しいパブリックに―」展を開催しました。公園のような公共性をウエディングに取り入れていきたいという想いを込めて、ウエディング業界にとどまらず、さまざまな業界やジャンルの作家やクリエイターによる作品や体験ブースが並びました。

今回は、東京会場の「メタエリア」で実施された、メタバースでの結婚式をプロデュースしたGugenkaの荻谷哲さんにインタビュー。漫画の世界観のような森や宇宙などの仮想空間で行われる結婚式体験は、整理券がなくなってしまうほど好評を博しました。時間や場所、性別も超越する未来の自由な結婚式の形は「リアルとバーチャルとつなぐメタバースとの相性が抜群」と話す荻谷さん。今回のイベントに参加した感想や荻谷さんが考える「2100年の結婚式」についてお話をうかがいました。

プロフィール
株式会社Gugenka 荻谷 哲(おぎたに さとし)

メタバースコンテンツクリエイティブスタジオ「Gugenka」にてメタバース関連のディレクション・プランニングに従事。様々なXR事業に関する新規事業及びイベント等のプロデュースに関わる一方、猫型バーチャルアバタータレント「Mr.にゃーん」としてバーチャル上での司会業なども兼務。

――今回のイベントの依頼を聞いた最初の感想を教えてください。

Gugenka はVR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの先端技術を活用したコンテンツ開発やクリエイティブを行っている会社です。今回のプロジェクトのように、メタバースやバーチャルで表現したいことに対して、提案から制作まで一気通貫で手掛けています。

最初にウエディングパークさんより「メタバースでの結婚式を実現したい」とうかがって「僕らがやらずして誰がやるんだろう」という気持ちでした。現実ではあり得ない空間も実現できる、自由な表現ができるのがメタバースの世界です。本当に相性がよいと思ったので、前のめりで「お願いします!」とお返事をしました。

――今回イベントで実施した「メタバース結婚式」では、性別にとらわれないアバターや動物が登場しましたが、どういった構想で今回のかたちができたのでしょうか。

コンセプトや来場者の方が求めるであろうものをヒアリングしながら作っていきました。表現したいものをイメージしながら「自分たちならこういう形だったら本当に感動するな」というところまで、いろいろとアイデアを提案させてもらいましたね。

メタバース内の動物一匹を作るにも、本当に作ろうと思えば非常に高精度なグラフィックのものもできますが、使用するプラットフォームの容量や限界値などの問題があります。それを踏まえた上でいいものを提供するというのが我々のミッションなので、今回とてもいい作品を提供することができたと感じています。

――アバターだけでなく動物たちが出てくる森など、メタバース内の式場もいろんな表現方法がありますよね。

 

構想段階で、普通の結婚式では体験できない場所を提供したいなと考えていました。例えば軽井沢の教会など森の中の結婚式場は存在していますが、人ではなくて森で暮らす動物たちが祝福してくれるのは、漫画の世界です。漫画で見たことがあるという感覚は重要で、「小さい頃にこういう場面を見たよね」「憧れたよね」という、深層心理に届くような表現をしてみたいと思っていました。

今回は、他にも宇宙の結婚式場も用意しました。最初に会場のイメージを作る前から「大きい月が見えるシチュエーションができないか」と考えていたからです。天候などに左右されることなく大きな月の前で愛を語り、誓い合うことって、現実世界だと難しいですよね。そのコンセプトがすごく気に入って、予定になかったのですが会場を2つ作ってしまいました(笑)。今回の体験では、森の世界から宇宙へワープできるのですが、普通なら絶対にありえない。でもその思考が、テーマである「未来」というキーワードにもすごく合うなと思いました。

将来は宇宙で結婚式を挙げたいよねっていう方もいらっしゃるでしょうし、そこを先取りできればいいなと。森の会場の世界線ともつなげたくて、動物たちが宇宙では人間の姿になって祝福してくれるような工夫もしました。

――素敵ですね! 月の前で愛を誓うのは、どういう発想から生まれたものなのでしょうか。

 

月は、物語や歌などで神格化されている部分がありますよね。人知の及ばないところで思いを託すものや、昔から人間のDNAに刻まれた何かがきっとあると思っていて。大きい月って、それが非常にわかりやすいんです。

森もですが、語らずとも誰もが素敵だなとわかるものに触れていくのって、すごく必要なはず。直感的に良さを体験していただける演出を入れたかったので、こだわりました。

――メタバース結婚式を通して、体験された方に伝えたかったメッセージはありますか。

僕自身も結婚式を挙げましたが、やっぱり結婚式って、すごく良い。銀婚式や金婚式もそうですが、結婚式って相手を思いやったり優しい気持ちになったりできる場所だと感じています。

メタバース結婚式をきっかけに「結婚式をやってみたいな」と感じてくれる方はもちろん、ピュアな気持ちや誰かを思いやる気持ちは大事だと、体験を通じて感じてくださっていれば嬉しいですね。

今回のメタバース結婚式をただ体験してもらうだけでなく、ストーリーを設定したのもこの理由からです。本当は見ていただくだけの想定でしたが、それだと「メタバースってすごいね!」で終わってしまうので、場所を提供するだけでなく、演出や誘導があってこそ気持ちが伝わるのではないかと考えました。

メタバースは没入感が強いものですが、コミュニケーションがないとその世界にハマれません。リアルでもコミュニケーションすることで距離が縮まりますよね。メタバースは次世代のSNSと呼ばれていますが、リアルかバーチャルかの違いで、実は求めているものは同じなんです。逆にそこがないとメタバースの魅力は半減してしまうので、ちゃんと表現したいと思っていました。

――イベント来場者の方の反響はいかがでしたか。

皆さんすごく楽しんでくださったっていました。カップルではない初対面の人同士がメタバース結婚式を2人で体験するなんてこともあったそうです。結婚式とは少し変わってしまうかもしれませんが、コミュニケーションがあったからこそ、結果的に楽しんでいただけたようなのでよかったなと思っています。

結婚式は新郎新婦2人の家族や知り合いが一堂に会して、コミュニケーションが生まれ、新しい接点も育まれますよね。結婚式は、出会いの場所でもあるという点も演出でき、喜んでいただけたのは嬉しいですね。

――荻谷さんご自身は「2100年の結婚式」は、どんなものになっていると思われますか。

本当に宇宙で結婚式している人がいるかもしれませんね。場所も時間ももっと自由になっていくでしょう。変わることもある一方、本質的なところは変わらないんだろうなと感じます。コミュニケーションもですが、感謝を伝えることやみんなで幸せな気持ちになるところは、きっと変わらない。むしろそこが変わらないのであれば、どういう形でも関係なくなっていくんだろうと思います。

結婚式は本当にいろいろな形があっていいと感じますし、メタバースでそれが表現できて実感してもらえたらすごく良いなと思います。みんなに祝ってもらって、自分たちも幸せな気持ちになるものって、何年経っても良い思い出として残るので、絶対やった方が良い。

従来の結婚式のイメージで、あまり自分に合わないかな、必要ないなと思っているのであれば、それはちょっと違うかもしれません。「こういう結婚式もありかも」「このぐらいカジュアルでやってもいいよね」、そんなたくさんの形の一つの選択肢としてメタバースもあるんだなと、思ってもらえたらすごく嬉しいです。結婚式って、本当にそれだけ懐の深いものですから。

( 取材:大井あゆみ  文:西沢裕子/ 写真: 関口佳代/ 企画編集:ウエディングパーク