「2100年」を想像し、明日を見つめる。「箱根本箱」「文喫」を手がけた染谷拓郎さんが考える、ミライの結婚式
現在、結婚を決めたカップルの約半数が結婚式を挙げないと言われています。結婚式場のクチコミサイトを運営するウエディングパークの調査によると、結婚式を挙げない理由として「結婚式にお金をかける意味や価値を感じない」と答える人も少なくありません。
さらに新型コロナウイルスの流行により、「集まる」ことを前提にしてきた結婚式の形にも変容が求められています。オンライン式場見学、結婚式のLIVE配信、自宅で挙げる結婚式などの新しいスタイルが誕生するたびに、注目が集まってきました。
結婚式のあり方が猛スピードで変化している今だからこそ、結婚式の本当の価値を見つめ直したい。
そんな思いでウエディングパークが企画したのが、結婚・結婚式の価値を捉え直すプロジェクト「Wedding Park 2100」です。80年後である「2100年」の結婚・結婚式を想像するイベントやコンテンツをとおして、結婚や結婚式の意味を見出すきっかけをお届けします。
今回のプロジェクトでは、イベントの企画や設計を社外の方と一緒に進めました。ブックホテル「箱根本箱」のブックディレクションや入場料制の本屋「文喫」のプランニングに関わった、日本出版販売株式会社のプランニングディレクター・染谷拓郎さんです。
これまでウエディングの業界とあまり関わりがなかった染谷さんは、未来の結婚式を考えるイベントの企画をとおして、結婚や結婚式の価値とどのように向き合ったのでしょうか。
染谷さんと、「Wedding Park 2100」プロジェクトの責任者である株式会社ウエディングパーク ブランドマネージャー菊地亜希の対談から、「Wedding Park 2100」イベントの背景をひもときます。
————————————————-
■ プロフィール
染谷 拓郎(そめや たくろう)
日本出版販売株式会社 営業本部所属 プランニングディレクター。 「人と本をつないでいく」をコンセプトに掲げる事業開発チーム「YOURS BOOK STORE」のメンバー。「“なくても生きていけるもの”を通じて、気持ちがうれしくなる機会や場所をつくること」をコンセプトに掲げ、「箱根本箱」や「文喫」をはじめ、様々なプロジェクトを推進している。
————————————————-
「なくても生きていけるもの」の価値と向き合うコロナ禍
(左:染谷拓郎さん、右:菊地亜希)
菊地:新型コロナの影響で、ウエディング業界は変容を迫られています。結婚式では人が集まって飲食しますから、最初の緊急事態宣言が出たときは、多くの挙式が延期になり、なかには中止を選ぶ方もいらっしゃったようです。
そんな中、結婚式が延期になって不安を感じるカップルに対して、オンラインでサポートする式場が増えてきました。オンライン結婚式をスタートさせた式場もあり、結婚式のあり方そのものが変化してきている印象です。染谷さんのお仕事は、コロナ禍でどんな変化がありましたか?
染谷:私が担当しているブックホテル「箱根本箱」は、2020年4〜6月の緊急事態宣言の前後で宿泊者数が激減したものの、「Go To トラベル」を活用するお客様が増えて好調が続いています。2020年11月には、箱根本箱の立ち上げ以来初めて、稼働率100%になりました。
「文喫」も最初の緊急事態宣言の期間中は利用者数が減りましたが、少しずつ客足が戻ってきました。2020年5月からは、これまで文喫で提供してきたサービスをオンラインに集約した「拡張文喫」を打ち出しています。特に、オンラインでの「選書宅配サービス」が人気ですね。
(文喫ホームページより、オンラインサービスを集約した「拡張文喫」をリリース)
菊地:文喫といえば「体験」を重視されてきたイメージがあるのですが、オンライン選書ではどんな体験を提供しているのでしょうか?
染谷:まずはお客様に「選書ヒアリングシート」を入力していただき、文喫のスタッフが電話でヒアリングをします。それらの情報をもとにスタッフが選書をし、書籍にコメントを書いたしおりを挟んでご自宅に送るサービスです。スタッフはちょっと大変でしょうが(笑)、すごく好評をいただいています。
菊地:たしかに、コロナ禍で読書する時間が増えました。
染谷:そうそう、コロナ禍で、売上が伸びた書店がたくさんありました。どうやって本を手に取ってもらうのかを考えながら、僕らはこれまで本に関わる場所や企画をとおしてずっと苦心してきました。それが、日常の行動が制限された途端に優先順位がコロッと変化して本が手に取られるようになったので、正直びっくりしています。
菊地:染谷さんがご自身のプランニングディレクターのお仕事を「“なくても生きていけるもの”を通じて、気持ちがうれしくなる機会や場所をつくること」と説明されていましたが、本を読む体験も結婚式も、考え方によっては「なくても生きていけるもの」かもしれません。
染谷:そうですね。逆に言えば、行動が制限されるような機会がないと優先順位の組み替えが起こらないし、「なくても生きていけるもの」である読書のランキングが上がらないんだな、と痛感しました。
菊地:結婚式も、普段はその重要性を考える機会がないと思うのですが、あったほうが豊かだなと感じます。冠婚葬祭や人生の通過儀礼は、大切な人と一緒に節目を過ごせる機会なんでしょうね。ただ、コロナ禍で「集まる」ことが難しくなった。だからこそ、結婚式の価値を見つめ直したいと思っています。
効率化と細分化によって、「人間らしさ」に光が当たる
菊地:染谷さんにプロデュースしていただくイベント「Wedding Park 2100」では、「2100年の結婚式」をテーマに、結婚式の価値を見つめ直そうとしています。80年後に思いを馳せたとき、染谷さんはどんなものに価値が見出されていくと考えていらっしゃいますか?
染谷:「人間らしく過ごす時間の価値」が上がるのではないかと思っています。僕は細切れの時間とひと続きの時間があるなら、できるだけ後者を確保したいんです。僕がやりたいことも「“なくても生きていけるもの”を通じて、気持ちがうれしくなる機会や場所」なので、ひと続きの時間のほうが相性もいいんですよ。
今後、仕事や生活に関わるさまざまなものが細分化と効率化されていくでしょうから、時間が細かく切られるものはテクノロジーに任せたらいいと思っています。その分、人間的な感情とどう向き合うか、人間らしくゆったりできる時間をどうつくるか。そこに価値が出るのではないかなと考えています。
菊地:私は2100年のことを考えたとき、人とつながる方法がもっと増えて、人と人との距離が縮まるんじゃないかと思いました。大切な人を祝いたい、大切な人に感謝したい、大切な人と集まりたい。まさに「人間らしい」気持ちは残るでしょうし、むしろこの気持ちを伝えたり形にしたりする方法を人間は増やしていくんじゃないかな、と考えています。
染谷:そういえば僕たち夫婦の場合、結婚式をDIYでやってみたんですよ。プランナーさんにお願いすれば解決するところを、自分たちの手でつくろうとして。そしたら非効率の極みだったんですけれど(笑)、2人でコミュニケーションを重ねながら自分たちでつくっていく実感を持てたことは、効率化によって得られる便利さとは真逆の価値があったように思います。
菊地:結婚式における指輪交換や誓いの儀式って、その行為の奥にある意味が重要だと思うんです。行為によって思いを伝えることや誓い合うこと、そして染谷さんのように、試行錯誤しながら結婚式をつくりあげること。これらは本質を見失わないために残ってきた、コミュニケーションのあり方なんじゃないかと考えています。
染谷:形は変われど、より本質的なものが残る。これは何においても当てはまるでしょうね。紙の本であれば、物体だけでなく体験とセットにすると、記憶に残る。結婚式を挙げることで、結婚にまつわる思い出がカップルや家族の共通の記憶になる。ですから「物」と「体験」のセットは、これからも残っていくのでしょうね。
未来を見つめることが、一歩先の明日を考えるヒントに
菊地:染谷さんに一緒に企画していただいているイベント「Wedding Park 2100」も、まさに結婚式の価値を「体験」してもらう機会にしたいと考えています。
結婚式は多くのカップルにとってはじめての経験です。招待されなければゲストとして参加することもできないし、事前に挙式する価値を実感できるチャンスがないので、式を挙げようとするカップルがいちばん気になるのは、挙式にかかるお金や式場選びなどの「形式」なんですよ。私たちメディアも形式を重視して発信してきた側面があるのですが、ウエディングパークとしては、形式ではなく本質を伝えていきたいと思っています。
染谷:今回イベントに関わって思ったのですが、結婚式って情報の集め方が特殊ですよね。
「箱根本箱」や「文喫」でいえば、ホテルや書店なので、お客さんがすでに体験したことがあるものじゃないですか。でも結婚式は、参列したことはあっても、自分で挙式した体験がない。自分の体験に参照して決められないんですよね。だからクチコミが重要になりますし、金額やコスパの良さなど、マーケティング寄りの情報を集めざるを得ないんだな、と思いました。
ですから「Wedding Park 2100」では既存の考え方から離れて、参加してくださった方が「結婚」に対して思考の幅を広げるきっかけを届けたいと考えています。特に、僕が担当するのは2100年の結婚式を考える「ミライ」のパートなので、「イマ」のパートとの振り幅をどう楽しんでもらえるか、仕掛けを用意したいです。
3月19日(金)より開催する「Wedding Park 2100」のイベントイメージ画像(本イベントは終了いたしました)
菊地:染谷さんのようにウエディング業界の外の方とご一緒することで、結婚式に新しい発想を取り込んだり「ここを変えることもできるんだ」と発見できたり、私も思考のタガを外して結婚式の本質を見つめ直せそうで、すごく楽しみです。
染谷:そうですね。今回は幅広いジャンルで活躍されている方々の力もお借りしながら、イベントづくりをしていく予定です。様々な「おもしろがり方」を見せてもらうことで、「じゃあ私たちの結婚式はこうしたいね」と身近なところに戻ってくるんじゃないかなと思っています。
「2100年」というと遠いところを照らしているようですが、実際は地続きの未来です。自分たちの一歩先を照らすような、そんな体験をお届けできたらいいですね。
(取材・文:菊池百合子 / 写真:土田凌 / 企画編集:ウエディングパーク)
■Wedding Park 2100(本イベントは終了いたしました)
3月19日(金)より、港区白金台にあるポップアップ型ショールーム「MuSuBu(ムスブ)」にて、コロナ禍の先にある結婚式を描く、2100年の結婚式をテーマにしたイベントをオンライン・オフラインという新しい形で開催いたします。
<概要>
日時:2021年3月19日(金)~21日(日)11時~18時
場所:新施設ポップアップ型ショールーム「MuSuBu」
東京都港区白金台4-9-19 HAPPO-EN URBAN SQUARE 1階&2階
————–
2021年3月21日をもちまして、「Wedding Park 2100 ミライケッコンシキ構想」のリアルイベントは終了いたしました。現在、イベント会場のバーチャルツアー&音声ガイド、体験リポート動画など、オンラインでイベントをお楽しみいただけます。ぜひご覧ください。