2100年のウエディングドレスが、家族を護る「ウエディングツリー」にたどりつくまで。UMIMAE BROTHERSのアートが表現した、結婚の未来とは?
新型コロナウイルスの流行によって、さまざまな場面でオンライン化が急速に進んだ2020年。“新しい生活様式”は、「結婚式」にも大きな影響を与えました。オンライン式場見学、結婚式のLIVE配信など、新しいサービスがいくつも誕生しています。
さまざまな場面で変化のスピードが上がる今、あらためて結婚式の本質と向き合おう。そして結婚式の未来を構想しよう──そんな思いでウエディングパークが企画したのが、結婚式の価値を捉え直すプロジェクト「Wedding Park 2100」です。
「Wedding Park 2100」プロジェクトでは、結婚式の未来を「体験」していただくために、2021年3月19日から21日にオンライン・オフラインハイブリッド型のイベントを開催。
過去から現代までの結婚式の変化を知れる「イマ」エリアと、「2100年の結婚式」をテーマにした作品を集めた「ミライ」エリアで構成された展示は、イベント会場への来場と、バーチャルツアーやYouTubeの視聴などをとおして、数百名に体験していただきました。
このイベントに合わせて、「2100年のウエディングドレス」を表現してくださったのは、アーティスト兄弟「UMIMAE BROTHERS」です。テキストと色彩、ドレスで2100年に至るまでを表現し、最後には「2100年の結婚式」におけるドレスの形として家族を護る「ウエディングツリー」を展示しました。
アパレルブランドとのコラボレーションが多かったUMIMAE BROTHERSにとって、ここまで大きい空間を手がける機会はあまりなかったそう。光を取り入れながら、ダイナミックで美しい色彩で形づくった「2100年のウエディングドレス」の表現に至るまで、どのようなプロセスで制作したのでしょうか。
UMIMAE BROTHERSの作品が生み出された背景に耳を傾けながら、当日イベント会場に展示された作品を写真でお楽しみください。
(※ 取材は2021年3月18日に、イベント会場で実施しました)
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■ プロフィール
UMIMAE BROTHERS(海前兄弟)
兄・海前英俊の技術と、弟・海前直樹の発想を掛け合わせて、ぺインティングを施すアーティスト兄弟。「Art in hand/持ち運べるアート」をテーマに iPhone ケースをキャンバスにした作品製作を2015年より開始。ふたりの感性と技術により描いた作品は多くのファッションブランドとコラボレートし洋服や塗装を活かした空間プロデュースを手がける。 Instagram
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兄弟で補い合って、想像を超えた作品をつくりあげる
おふたりが手がけた2100年のウエディングドレスの前で。
左が兄の英俊さん、右が弟の直樹さん
── おふたりはご兄弟で「UMIMAE BROTHERS」の活動をされているとのことですが、どのようなきっかけでアート活動を始めたのでしょうか?
直樹:兄がもともと絵を描くのが得意で、塗料を扱うペンキ屋で仕事をしていたんです。一方の僕は、店舗空間のディレクションやビジュアルを手がけたり、商品を買い付けるついでにアートオブジェも購入したりしていました。僕はアートが好きで、兄は描くのが好き。そういう兄弟でした。
活動を始めたきっかけは、兄がある日「これ売れると思う?」と財布に描いたスカルを見せてきたことです。僕としては、せっかく絵の技術があるから、ここにデザインのセンスを加えたらもっと違う表現をできそうだと感じました。
それで「抽象表現をやってみれば?」と提案し、まずはスマートフォンのケースからトライしてもらったら、すごく良くて。これはおもしろいと思ったので、僕がイメージを考えて彼が描くスタイルで、趣味のアート活動から始めました。それが2015年の、UMIMAE BROTHERSの始まりです。
── 具体表現から抽象表現に変えることは、英俊さんにとってどんな変化だったのでしょうか?
英俊:弟に抽象的なイメージを聞いて作品に落とし込むんですけど、最初は言っていることが全然わからなかったんですよね。でも何回もやりとりして、少しずつわかるようになりました。逆にいえば、彼が表現したいものを本当に理解できるのは、兄弟である僕しかいないのかもしれないな、と思っています。
今でも本当に何を言っているかわからないときがあるんですけど(笑)、写真やイメージを共有してもらって、僕が考えたものを提出することを繰り返すと、ふたりのつくりたいものがだんだん近づいていくんですよ。最終的にはお互いのイメージがぴったりハマったり、もともと持っていたイメージを超えたりする。そういう瞬間がすごく楽しいですね。
今回の展示でも、直樹さんが構想を膨らませ、色鮮やかな表現を英俊さんが手がけた
直樹:そうやって作品づくりを重ねることで、だんだん兄が技術をコントロールできるようになっていったんです。そのころから、何かオファーをいただいたときに、自分たちの作品を見せるようになりました。物をつくるオファーから、空間プロデュースやアート作品の展示に関するオファーもだんだんと増えてきて、今に至ります。
僕たちが活動するいちばんの意味としては、兄とコミュニケーションを重ねながら、誰かに「いい」と言ってもらえるものをつくることだと考えているんです。売るためだけの活動になるのは避けたくて、楽しめることを大切にしています。
ドレスそのものではなく、ドレスを取り巻く社会を表現した
── おふたりは「2100年の結婚式」というお題をどうして受けてくださったのでしょうか?
英俊:お仕事をお受けするときに、テンションが上がるお題かどうかを大切にしているんです。「2100年の結婚式」は、お題をいただいてすぐに楽しそうだなと思いましたね。
直樹:そうそう、すごく楽しそうだなと思ってすぐにお受けすることを決めました。洋服や空間をつくることはあったけれど、これまでUMIMAE BROTHERSが経験してきたなかでも特に大きいステージです。それに、ウエディングをテーマにするのは初めてだったので、フレッシュな気持ちで臨めました。
英俊:印象に残ったのが、弟がすごく嬉しそうに「兄貴、一生の頼みだわ」と僕に言ってきたんですよ。このフレーズを何回使うんだろう、と思うんですけどね(笑)。「なんとかやってくれない?」って嬉しそうに言うものだから、「やろう」と返事をしました。
4つのキーワードで2100年の未来に至るまでの流れをつくり、色彩とドレスを組み合わせて展示している
(衣装協力:FOUR SIS & CO.)
── 受けていただけてよかったです。「2100年のウエディングドレス」というお題に対して、ドレスと色彩、テキストを組み合わせてアートにされています。この表現に至った背景にはどんな経緯があったのでしょうか?
直樹:オファーは「2100年の結婚式をテーマに、ドレスをつくってほしい」というものでした。でも僕たちは、ドレスをつくれません。その制約があったことで、作品への発想がある意味広がったように思います。
僕たちの表現方法で、未来のドレスをどのように表現するのか。そう考えていったときに、ドレスそのものをデザインするのではなく、ドレスが使われる習慣を表現できるのではないか、と思いついたんです。ドレスを取り巻く社会情勢や風潮を、アートに落とし込めばいいんじゃないかと。
そこから、現在すでに広まっているサスティナブルな取り組み、3Dプリンターの活用、繊維の進化、そしてウエディングツリーにつながるストーリーが見えていきました。
── 未来を表現するドレスがすべて純白で、現在も存在するスタイルだったのが意外に感じました。
直樹:イメージをどう形にするのかを考える上で、結婚式の歴史について勉強してみたんです。そしたら、意外と変わっていないんだなと思いました。ドレスの形や流行は変化しても、純白のドレスがいちばん人気。
そんな純白のドレスを超えるものを、今の僕では考えられないなと思いました。ですからドレスの色や形を変えずに、僕たちの持っている方法で未来を表現したんです。
── そして最後に表現された2100年のドレスが、布をまとった「ウエディングツリー」という表現になったことも、すごく印象に残っています。
直樹:「2100年の結婚式」を想像する軸として、「ウエディング業界が今後どうしたらハッピーになっていくんだろう」と考えていました。2100年に至るまでに「Sustainable/環境に優しいこと」「INDUSTRY 5.0/つくりかたの変革」「Pride/変わらない願い」の3つのドレスのあり方を表現した先にある、「Future/未来の価値観」とは何なのだろうかと。
ウエディング業界がハッピーになれる表現を追求した結果、温かくて幸せで、ポジティブなウエディングの表現と、木に宿る精霊が家族を護る「守護樹」の文化を掛け合わせたいなと思い、あのような形になりました。
植栽協力:日本緑化企画
言葉と色彩とドレスが響き合う唯一無二のアート作品
── 実際に展示をご覧になってみて、どう感じましたか?
直樹:お客様にお見せするまでは、自分たちの表現をどう受け取ってもらえるかは正直わかりませんでした。でも展示会場にいらした方から「すごくいいですね」と言っていただけて、ようやく完成させられた感覚です。
英俊:僕たちにとって、文字を前面に出した作品は今回が初めてだったんです。弟に送ってもらったストーリーがすごくよかったので、ストーリーに合わせる方法で絵を描きました。すべてをひとつの作品として捉えてもらえたら嬉しいですね。
直樹:そうそう。ストーリーを作品に組み込むことも、言葉と色彩とドレスを重ねて展示するスタイルも、僕たちにとって初挑戦でした。言葉と作品の組み合わせによる響き合いを、ぜひ楽しんでもらえたらと思います。
(取材:染谷拓郎(日本出版販売株式会社) / 文:菊池百合子 / 写真:土田凌 / 企画編集:ウエディングパーク)
■2100年の結婚式をテーマにしたドレス UMIMAE BROTHERS
1.Sustainable/環境に優しいこと
国連がSDGs「持続可能な開発目標」を掲げてから、世界各国は環境に配慮したアクションを起こしています。 ウエディングドレスも同様に、天然素材や植物由来の化学繊維、リサイクル素材で製作され、石油由来の化学繊維はなくなっています。 繊維企業による開発が進み、「Never」という化学繊維が誕生。これは、土に還り、焼却しても一切の温室効果ガスを排出しない繊維なのです。
2.INDUSTRY 5.0/つくりかたの変革
ものづくりのプロセスは、3Dプリンターの普及によって大きく変わりました。 ドレスも同様です。アパレル企業とメーカーの共同開発による3Dプリンター「Change」は繊維から糸を生成し、糸からドレスをデザイン通りに仕立てることができます。 デザイナーでなくてもデザインできること。 花嫁はドレスを「選ぶ」のではなく、「つくる」ことになるでしょう。 その後、「Change」がより普及し、ウエディングドレスは低コスト・ハイクオリティで製作できるようになり、全てフルオーダーで購入できるものとなりました。
3.Pride/変わらない願い
1840年ヴィクトリア女王が纏った白いドレス。2021年のいまも変わらず白が主流ですが、2100年のドレスはより純白にきらめくでしょう。 化学繊維「Never」はコットンより純白な繊維であり、他の天然素材と合わせて糸にすることも可能。中でもシルクとの組み合わせは、より美しい光沢を放ち、ウエディングドレスの定番となりました。 3Dプリンター「Change」と「Never」の糸で作られたウエディングドレスはカラー、パステル、プリントと時代によるトレンドはあれど、純白が主流なことは変わりませんでした。 特別な日に、純白のドレスを身に纏う人の「世界で一番美しい自分になりたい」という心の芯から湧き出る想いも決して変わることはありませんでした。
4.Future/未来の価値観
ものを再利用する価値観が主流となり、購入したウエディングドレスを心地よいベッドシーツやカーテンなどのインテリアにリメイクすることも当たり前となりました。 「Change」でデザインしたレースもまた、子供のドレスに再利用され、着物のように受け継がれています。 2095年、自然に還る化学繊維「NEVER」は、土に埋めると大きく美しい樹木になる繊維「EVER」に進化。結婚式の後にウエディングドレスを土に埋める習慣がはじまりました。家族を護る守護樹「ウエディングツリー」と呼び、家族で育む文化になりました。 2100年のウエディング業界では、この文化を通じて環境問題の改善にも寄与するものとなりました。
3月19日~21日まで開催したイベントは、現在もオンラインでお楽しみいただけます。