結婚式に込められた「意味」が、人生を次に進める。婚礼文化研究家・鈴木一彌さんが見つめる、結婚式の本質とは?

新型コロナウイルスの流行をきっかけに、結婚式のあり方が一気に多様になりました。これまでにないやり方が検討されたからこそ、ウエディング業界もカップルも「なぜ結婚式をするのか?」「結婚ってなんだろう」と考える機会が増えたのではないでしょうか。

結婚式のあり方に大きな変化が生じている今こそ、これまでの歴史を知り、先のミライに想像を馳せてみることで、「結婚」や人生に寄り添う「結婚式」の価値とあらためて向き合いたい──そんな思いでウエディングパークが企画したのが、結婚・結婚式の価値を捉え直すプロジェクト「Wedding Park 2100 ミライケッコンシキ構想」です。

2021年3月には初めての特別イベントを開催。数々のクリエイターと共に結婚・結婚式の未来を構想し、数百名の来場者と体験することができました。来場者の方々からご好評をいただいたことで、ミライの結婚式を考えるプロジェクトの意義を、私たちも再確認できたように思います。

そして昨年の反響を踏まえ、2022年にはテーマ「100色の結婚式−2100年までにカタチにしたい100のこと−」を掲げて新たなイベントをお届けすることにしました。3月4日から6日までの3日間、東京・表参道の複合文化施設「スパイラル」にて、ウエディング業界内外問わず、さまざまなクリエイターや企業、学生が参加する結婚・結婚式のミュージアムを開催予定です。

こちらの特設サイトではイベントと連動して、ウエディング業界内外の方々と一緒に「ミライの結婚式」についての構想を膨らませる記事をお届けしていきます。

第一弾としてお話を聞かせていただいたのは、婚礼文化研究家の鈴木一彌さんです。40年近くウエディング業界で活動され、さらに大学院で歴史や文化の観点から結婚式を研究されている鈴木さんに、受け継がれてきた結婚式の「本質」について伺いました。

 


■ プロフィール
鈴木 一彌(すずき ひとみ)
株式会社Ginza Fiore 代表取締役・婚礼文化研究家。ウエディングプランナーや司会、サービスの経験を活かし、ウエディング業界を知る第一人者として、専門学校の学生やプランナーへの指導に注力している。大学院では民俗学の視点から婚姻・婚姻儀礼について研究し、結婚式の歴史や文化について精力的に発信中。 公式ブログ


 

結婚式のあらゆる慣習を学びたくて、婚礼文化研究家に

── 鈴木さんはウエディング業界でのお仕事を40年近く続けていらっしゃるとのことですが、どのようなきっかけでウエディングに興味を持たれたのでしょうか。

13歳に海外の映画を観たとき、小学生がままごとで誓い合いの儀式をしていたシーンが印象に残りました。結婚式に憧れを持つよりも「私だったらこうしたいな」と考えるようになり、中学生の頃から「ウエディングの仕事がしたい!」と思っていました。

── 早い段階からウエディング業界に興味を持っていたんですね。その後どのようにして、ウエディング業界のお仕事を始められましたか?

当時はウエディングに関わる仕事がほとんどなくて、ウエディングプランナーの仕事も存在しなかったので、まずはホテルで宴会のサービススタッフを始めたんです。その後、日本にプランナーの仕事が入ってきたタイミングで専門学校に入り、空間デザインから振る舞いまでウエディングに関する多くのことを学びました。結婚式に関することは何でもできるようになりたかったんです。

そして学びの過程で、結婚式当日だけでなく、結婚式の準備からその後まで、おふたりの人生に歩み寄りたい、と思うようになりました。そこで起業をし、たくさんの結婚式に関わるよりも、1件の結婚式と、そのおふたりやご家族にじっくり向き合うスタイルでプランナーを始めたんです。この思いは今でも変わらなくて、かつて結婚式を担当させていただいたおふたりのご家族のお祝いや法事に呼んでいただくこともあります。

── ウエディングプランナーを長く続けられながら、現在は「婚礼文化研究家」としても活動されています。このご活動はどのようなきっかけで始められたのでしょうか

大学で伝統文化と婚礼比較で5年、昨年より大学院で民俗学の視点から婚姻・婚姻儀礼研究をしています。でも婚礼の文化や歴史を知る必要性を痛感したのは、もっと前のことですね。自分の知識がなければお客様の役に立てない、と痛感したことがきっかけでした。

というのも、海外の結婚式は宗教行事なので、宗教によって式の進め方がおのずと決まります。でも日本だと、結婚式のあり方を決めるのは、宗教ではなく地域ごとの風習や儀礼が多い。ですからおふたりやそのご家族のご出身によって、「こうあるべき」と考えられるルールが異なります。

そうなると、お客様が認識しているルールをプランナーが知らなければ、特にご家族を不安にさせてしまうんです。決まっているようで決まっていないあらゆるルールを知らなければ、結婚式のプロではないなと感じて、学び直しをすることにしました。


>学校講師としても活動されている鈴木さん。学生と一緒に模擬披露宴をおこなっている様子(提供:鈴木一彌)

結婚式における3つの儀式は、「約束」を確認する意味がある

── ご経験や婚礼文化の研究も踏まえて、結婚式にはどのような意味があると考えていらっしゃいますか?

結婚式とは、人生における儀礼の一つです。妊娠5ヶ月の帯祝いから始まり、生まれた後はお宮参り、七五三、成人式、結婚式、最後はお葬式まで、一生のうちで一度の儀礼のことを「人生儀礼」といいます。この儀礼には、「役割」が変化したことを社会的に承認してもらう意味があると言えるでしょう。人は一人では生きてはいけませんから。

そのなかでも結婚式は、他人どうしが血縁と同等の関係になる儀式として重要な儀礼です。時代が変われどこの本質は変わらず、役割が変化した二人を承認してもらうことで、“ふうふ”として社会的な歩みをスタートしていく意味があると思います。

── 重要な人生儀礼である結婚式の、受け継がれてきた本質はどこにあると考えていらっしゃいますか?

結婚式は、「結納」「挙式」「披露宴」の3つの儀式で成り立っていて、それぞれの儀式の意味が受け継がれています。結納は二人がふうふになる「約束」の儀式で、挙式でその約束を「契約」にし、披露宴によって契約の社会的な「承認」を得る。この意味に本質があると私は考えています。

── 3つの儀式のうち、特に「結納」はあまり重視されなくなってきていると感じます。

そうですね、今では結納をせずに挙式と披露宴をするケースも多くなっていますよね。でも結婚式における3つの儀礼って、ふうふになる約束を繰り返し確認する意味があるんです。結納を飛ばすと、約束していないのに契約することになる。でも私は、約束することが最も重要だと思っています。約束が成立していなければ、その後の儀礼に進めませんから。

ですからコロナ禍こそ結納をおすすめしたいです。挙式が延期になったり、おふたりからご両親への結婚のご挨拶が遅くなったりする今だからこそ、約束を交わす意味が増してくると思います。

やり方は、時代や状況に合わせて変えて良いと思っています。重要なのは、結納の意味を理解した上で、顔を合わせて約束を取り交わす場をつくること。約束の儀式を経ることで、ご結婚する当人たちや親御さんの不安が和らいで、心から幸せな気持ちで挙式に向かえるのではないでしょうか。

儀礼の意味を見つめ直し、新しい結婚式のあり方を考える

── コロナ禍のウエディング業界はまさに「やり方を変える」必要性を突きつけられましたが、コロナ禍での業界の変化を、鈴木さんはどのようにご覧になっていますか?

結婚式をしたかったのにできなかった人たちのことを考えると、非常に悲しい気持ちになります。その上で、婚礼文化研究家としては、結婚式の本質に向き合う機会をもらったのではないか、とも考えているんです。

例えば、今までは披露宴に大人数を招待することが当たり前になっていたかもしれないけれど、コロナ禍で「100人も呼べないよ」という状況になった。でもこの状況だからこそ、「制約のなかでできることは?」「そもそも披露宴で大切なことは何だっけ?」と核になるものに立ち返り、あらためて考えられることがあると思います。

── 確かに、今まで当たり前のように思われていた方法を変えざるを得なくなったことで、少人数での結婚式や、披露宴へのオンライン参列など、結婚式の方法が一気に多様化しましたね。

そうですよね。私は、披露宴の新しいやり方が出てくるのは良いことだと思うんです。これまでフォーマット化されていた「2時間半」という所要時間も、1日かけて少しずつ人を集めるスタイルでもいいし、1ヶ月かけてもいい。

重要なのは、やはり結婚式の意味だと思います。結婚式における儀式の受け継がれてきた意味を見つめて、「自分たちはなぜ結婚式をするのか」を理解する。その上で自分たちにぴったりの結婚式をつくっていけたら、一生忘れない式になると思いますよ。

── 2021年に鈴木さんに監修としてご参加いただいた「Wedding Park 2100 ミライケッコンシキ構想」のイベントを、2022年も開催する予定です。2100年の結婚式を想像しながら、鈴木さんが未来に受け継ぎたいものはありますか?

2100年ってあらためて考えてみると、そんなに先のことでもないんですよね。だって80年前を遡ってみたら、当時のお話を聞ける方もいらっしゃるし、今を生きる自分が知れることもあります。

だからこそ、約80年後の2100年になったとき、コロナ禍の結婚式についても「あのとき大変だったらしいね」だけではなく、ポジティブに語ってもらえるようなメッセージを残していきたいなと思いました。今だからこそできることを考えて、結婚式の本質を未来につないでいきたいですね。

(文:菊池百合子 / 写真:伊藤メイ子 / 取材・企画編集:ウエディングパーク

■ 特別イベント「100色の結婚式−2100年までにカタチにしたい100のこと−」展の会場内が見られる360°バーチャルツアーと、企画者たちのコメント・会場の様子が見られるダイジェストムービーを公開しました。ぜひお楽しみください。

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